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[がんの性質を理解する]

(1)​がんには独自のメカニズムがある

がんとなった異常細胞は、異常であるだけに、正常な細胞に比べると不完全。細胞が生きていくために必要な酸素を、上手にとり込むことができません。そこで、不完全を補うべく、生き残るために独自のメカニズムをつくり出します。

また、免疫によって排除されないワザも身につけ、まるでブレーキの効かない車のように、無限に増殖を続けることができるようになります。正常な細胞はとても規則正しく、例えば胃なら胃、皮膚なら皮膚と、自分のいるべき場所から離れたりしませんが、がんは自由奔放。自分の都合で動くため、他の臓器に転移することがあるのです。

こうして特徴を羅列すると、一見怖いものなしに思えるがんですが、完全無欠ではありません。生き残るためのメカニズムを解明すれば、がんが生きにくい環境をつくり、消滅させることも可能です。そのためにはまず、がんの性質を理解することからはじめましょう。(「がんに絶対勝ちたい!和田式食事法」p.17-18 より引用)

(2)がん細胞は特殊な方法でブドウ糖をエネルギーに変える

まず知っておいていただきたいのは、がん細胞と正常細胞(定常状態の細胞)とではエネルギー(学問的にいえばATP)の産み出し方に大きな違いがあるという点です。がん細胞も正常細胞もブドウ糖をエネルギー源にしているという点では同じですが、ブドウ糖からエネルギーを産み出していくプロセスが大きく異なっているのです。どういうことかというと、正常細胞はブドウ糖を分解(解糖)した後に、細胞内のミトコンドリアという器官に酸素を取り込み、その取り込んだ酸素を使ってエネルギーを産み出しています。(「がんを生き抜く最強ごはん」p.49より引用)

ATPは解糖によっても作られますが、解糖によって作られた代謝物(ピルビン酸)がミトコンドリアという器官内でクエン酸回路に送られ、最終的に酸素と反応することで、解糖よりもずっと多くのATPを作ることができるのです。このミトコンドリア内での反応は酸化的リン酸化(Oxidative phosphorylation: OXPHOS)とよばれ、我々の体の細胞は呼吸から得た酸素を利用した酸化的リン酸化を主として用い、エネルギーを得ているのです。

ところが、がん細胞がエネルギー源としてATPをつくるのは、主に解糖系によってです。がん細胞には、GLUTs(Glucose transporters)という、グルコース(ブドウ糖)、すなわち糖分を取り込むための専用取り込み口が正常細胞に比べてたくさん発現しています。解糖系が亢進し、エネルギーを得るために多くの糖分が必要であること、これこそががんの大きな特徴の一つであり、これはワールブルグ効果と呼ばれています。(「がんに負けないこころとからだのつくりかた」p.24より引用)

なぜ、がんは解糖系からエネルギーを得るのでしょうか?これには3つの理由があります。

  1つ目は、がんの成長にエネルギー、すなわちATPの急速な産生が必要だからです。正常細胞では、血液から酸素を獲得し、酸化的リン酸化を行うことによりATPを得ています。しかし、がん細胞には、酸素を十分に届けてくれる血管が発達していません。また、解糖系は酸化的リン酸化に比べてATPの産生効率は悪いものの、ATPの産生速度が非常に速いという特徴があります。

  2つ目は、新たながん細胞を作るための材料を得るためです。解糖系でエネルギーが作られるとき、糖は複雑に代謝されて姿を変えていき、時には枝分かれした経路から細胞に必要な分子が作られていきます。

  3つ目は、活性酸素の調節のためです。増殖が盛んな腫瘍細胞ではより多くの活性酸素が発生し、これは増殖細胞にとっては都合の悪いことです。糖代謝によって得られたNADPH(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)はこの活性酸素を調節し、腫瘍が増殖しやすい環境を整えるのです。

 以上から、酸化的リン酸化をほとんど用いずに、主として解糖系からエネルギー産生を行うワールブルグ効果は、がん細胞の成長にとって必須のものなのです。

(「がんに負けないこころとからだのつくりかた」p.25-27より引用)​​​​​

​ブドウ糖をピルビン酸にまで分解する解糖によって少量ながらエネルギー(ATP)が作られる。しかし、このピルビン酸がミトコンドリアに送られると、酸素を使った酸化的リン酸化によって、解糖よりもずっと多くのATPを作ることができる。このため、正常細胞では、主として酸化的リン酸化によって、少ないブドウ糖から効率よく多くのエネルギーを得ることができる。

がん細胞では、酸化的リン酸化による効率的なエネルギー(ATP)生産はほとんど行われず、主として解糖によってATPを生成している(ワールブルク効果)。このため、がんが生きていくのに十分なATPをつくるためには大量にブドウ糖を消費する必要がある。がん細胞は正常細胞よりもブドウ糖の取り込み口(GLUTs)をたくさん持っていて、解糖によってピルビン酸が大量につくられる。しかし、これらはミトコンドリアでの酸化的リン酸化にはほとんど消費されず、最終的には乳酸になり細胞内に蓄積されることになる。

(3)がん細胞は塩分で住環境を整える​

正常細胞が酸素を使ってブドウ糖を分解しているのに対して、がん細胞は酸素を使わずにブドウ糖を分解していますが、がん細胞がこのような特殊な解糖を行っていることには別の利点も存在します。

というのも、このような特殊な解糖による代謝の結果として、がん細胞周辺の細胞環境が酸性化してくるからです。そして、がん細胞は周辺環境を酸性化することによって自身が活動、成長しやすい環境を整えているのですが、実は、ブドウ糖はがん細胞が好むこの酸性環境の形成に一役も二役も買っているのです。

 どういうことかというと、がん細胞によって取り込まれたブドウ糖は最終的には乳酸という酸に変換されていきます。そして、がん細胞は水素イオンそのものである酸(プロトン)を細胞の外に排出し、周辺の細胞環境をアルカリ性ではなく酸性に保つことによって、増殖や転移などに都合のいい住環境を作り上げているのです。

(「がんを生き抜く最強ごはん」 p.52-54より引用)

 がんが周囲を酸性環境に変えていくのに最も重要なものは、ナトリウム/プロトンポンプです。これは、糖代謝により産生された乳酸の酸(プロトン)をナトリウムと交換して細胞外に排出し、周囲を酸性に変えていきます。そのため、がん細胞には塩分(ナトリウム)が必要なのです。ナトリウムが少なければがん細胞はプロトンを排出しにくくなるため、がん細胞の住みやすい酸性環境は弱まり、がん自身の勢いも衰えるのです。

(「がんに負けないこころとからだのつくりかた」p.27-28より引用)

がん細胞内には、解糖系の亢進によって乳酸が蓄積する。乳酸分子は水素イオンそのものである酸(H⁺:プロトン)を解離する。プロトンは、ナトリウム/プロトンポンプによって、ナトリウム(塩分)と交換に細胞外に排出され、細胞の周囲の環境を酸性に変えていく。

がん細胞は、主に解糖系によってエネルギーを作り出すため、正常細胞に比べて大量のブドウ糖を消費する。細胞内に蓄積した乳酸に由来するプロトン(H⁺)は塩分(ナトリウム)と引き換えに細胞の周囲に排出して、自らが住みやすい酸性の環境を作っている。

(4)がん細胞ではmTORの働きが亢進している

細胞の分裂や生存の調節に中心的な役割を果たしているmTOR(mammalian target of rapamycin)という物質があります。mTORは、正常細胞の分裂や成長を適切にコントロールしていますが、がん細胞ではこのmTORの働きが亢進し、がんの成長に関わっているのです。

​(「がんに負けないこころとからだのつくりかた」p.29-30より引用)

(5)がんは炎症によって進行する

炎症は体の中で起きた火事のようなものですが、火災現場には消防士や警察官などが駆け付け、力を合わせて鎮火作業にあたります。同時に、体の中で炎症が起こると、炎症を鎮火すべく、白血球に含まれる好中球やリンパ球などが炎症部位に集まってきます。

たとえば、喉に細菌が感染して炎症を起こすと、好中球を中心とした鎮火部隊が駆けつけ、感染した細胞を排除していきます。ただし、このような炎症の多くは一過性のもの、医学的には急性炎症と呼ばれています。

ところが、炎症の中には、すぐには鎮火せず、長時間燻り続けるものがあります。これが医学的にいう慢性炎症で、この慢性炎症ががんの引き金になるほか、多くの生活習慣病の原因にもなるのです。

典型例を挙げれば、いわゆる「肥満」です。肥満は体の中で燻り続ける慢性炎症で、肥満の人がある種のがんにかかりやすいことは、医学的にも証明されている事実です。

…<中略>…

慢性炎症はがんの発症に関わっているだけではなく、発症したがんが活発化するメカニズムにも深くかかわっているのです。実際、肥満の人はがんにかかる確率が上がるだけではなく、発症したがんの治療効果も低くなってしまいます。一言でいえば、がんは慢性炎症を引き金として発症するとともに、発症したがんもまた慢性炎症の状態を好むからです。事実、発症したがんは炎症を調節する体内物質に働きかけて、みずからが住みやすい慢性炎症の状態を保とうとすることが、これまでの研究で明らかになっているのです。

(「がんを生き抜く最強ごはん」p.39-41より引用)

(6)がんと免疫

​血液の中には、白血球、赤血球、血小板という細胞や血球があります。どれも人間が生きていくために不可欠なものです。この中で、白血球という成分はとくに免疫応答に関与することが知られており、がんの発症や進行には、この免疫の力が大きく関与しています。

免疫とは、簡単に説明すると、人間のからだに備わった、自分とは異なる異物を排除する仕組みのことです。自分とは異なる異物とは、感染症を起こす細菌やウイルスだったり、自分の体が作った異常細胞のことです。…<中略>…

健康な人でも体内では、日々数千から一万を超す数の異常細胞が出来てしまうといわれています。免疫がしっかり働いていれば異常細胞は排除され、異常細胞が増殖してがん化していくことを防いでいます。しかし、免疫がうまく働かない場合には、異常細胞の数が増えていき、いずれがん化していく危険があるのです。

では、すでに体の中にがんを作ってしまった場合はどうでしょうか?もちろん、この場合も免疫の力は非常に重要です。一般的に、免疫力が弱まればよりがんは進行しやすくなりますし、免疫力が強ければがんはおとなしくなる可能性があります。…<中略>…

​白血球には、好中球やリンパ球、好酸球、単球、好塩基球といった様々な種類があり、全てをまとめて白血球と呼んでいます。免疫で特に重要なのは、好中球とリンパ球のバランスです。好中球は最近や真菌などに対処するという重要な役割を持っています。しかし、過度に増えた好中球はがんを助けることになります。好中球は様々な物質を放出し、炎症を進め、がんを進行させるのです。一方、リンパ球には異常細胞やがん細胞を排除する様々な種類の免疫細胞が含まれています。

(「がんに負けないこころとからだのつくりかた」p.36-39より引用)

​がんに負けないこころとからだをつくる

NPO法人みらい
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